「オーバードーズの原� 」 トー横の“売人”が有罪後に向かった先
厚い雲に覆われた、ま� 寒い2月のある日� った。
金髪にマスク姿の男性が、東京・小菅の拘置所から姿を現した。両腕には大きな二つの紙袋。裸足にサンダルの足元は、季節外れに見えた。
この日、東京地裁で罰金30万円の有罪判決を受け、釈放された。新宿・歌舞伎町で市販薬の過剰摂取を繰り返した末に、他人に薬を無許可で販売したとして罪に問われた。
「塀の外」の空気を吸うのは約3カ月ぶり。「あの街にはもう戻らない。まっとうに生きる」。そう決意していた。
無料メルマガ「裁判Plus 司法のリアル」が8月2日から配信スタート。登録はこちらからできます。
「母親の機嫌取らなきゃ殴られる」
札幌市出身の22歳。生まれてすぐに両親が離婚し、母親と2人で暮らした。
物心ついて母親からは度々、暴力を振るわれた。児童相談所が介入したことも何度かあった、と明かした。
「作り笑いばかりしていた。母親の機嫌を取らなきゃ殴られると思っていた」
高� �に入ると友人宅を転々とし、たまに家に戻ればしかられるばかり。札幌にいる限り、自由はないと感じた。別の高� �に編入後、中退して上京した。19歳の秋� った。
当時、男性は黒を基調としてリボンをあしらった服装を好んで身に着けていた。ダークでかわいい「地雷系」と呼ばれるファッション� った。
上京して1カ月がたった� �。同じ地雷系の若者に声を掛けられた。
「その服、いいね」
� �所は、たまたま訪れた歌舞伎町・新宿東宝ビルの横。通称「トー横」。近辺にたむろする若者は「トー横キッズ」と呼ばれるが、トー横に集った若者同士の間では互いを「界隈(かいわい)民」と呼び合う。
連絡先を交換すると、後日、「きょう来る?」と誘われた。うれしかった。
見せられなかった自身の弱み
界隈民にはつらい経験を重ねた人が多かった。親からの虐待、学� �でのいじめ、パートナーによる暴力――。「みんな逃げ� �を求めて来ているん� 」。仲間� と感じ、毎日のように通った。
母親に似た声や姿に接すると、虐待の記憶がよみがえった。界隈民からつらい過去を明かされることも多かったが、自身の弱みは見せられなかった。
ある日、当時の交際相手から「はやっているらしいよ」と市販薬の過剰摂取を教えられた。いわゆる「オーバードーズ」� 。
薬を大量に飲むと平衡感覚が失われ、高揚感に包まれた。「しらふに戻るとすごく気持ちが悪くなった」。た� 、嫌な思い出を� �から追いやることができた。
依存症に、救急搬送――。オーバードーズは社会問題化している。歌舞伎町周辺では薬の…
この記事は有料記事です。
残り1313文字(全文2371文字)